倒産法ゼミ
>> 第2回
第1回
通常の(債務者が経済的に破綻していない)場合、貸金は、弁済期に支払われ、売買代金も支払われる。
債務が任意に履行されない場合、 訴えを提起し、給付判決を得て、強制執行によって満足を得ることもできる。履行期が到来した債権の回収をするにつき、より勤勉な債権者が、結果として、弁済を受け、あるいは、満足を得ることは全く妥当である。
では、債務者の財産状態が悪化し、経済的に破綻した場合はどうか。
この場合、任意の履行は望めない。そのうえ、債権者としては、自己の債権の完全な満足を得るためには、他の債権者を排除する必要があるため、互いに競争して取立てをし、財産の差し押さえをし、容赦のない強引なやり方をした者だけが満足を得ると いう不公平な結果も起こりうる。
債務者にとっても、多数の債権者から次々に債権の回収を受けると、対応に追われ、結局、経済的に再起する機会を逸する。
債務者が、債権者の容赦のない行動をおそれ、実質、経済的に破綻してしまっているのに、無理に経済活動を継続すれば、更に、深みに入り、社会的にも大きな影響(連鎖倒産)を与えるおそれがある。
このように、債務者が経済的に破綻したとき、債権者間の公平をはかる必要がある。
破産法は、債権者の個別的な権利行使を禁止し、破産手続によってしか、その権利を行使することができないと定める(100条)。いわば、権利行使の途を破産手続に一本化するのである。
「破産手続による」とは、債権を届け出て、調査をし、確定した後、配当を受けるという手続を経なければならないということである。
また、個別的権利行使が禁止されると、債務者は、債権者の個別の請求を受けなくなるので、再起の余裕が生まれる。免責が得られれば、ゼロからの出発も可能になる。
破産債権者は、配当が受けられたとしても、だいたい3〜5%程度であることが多いと言われている。つまり、100万円の債権をもっていても、破産手続が開始されると、全額踏み倒されるか、配当が受けられたとしても、せいぜい3万円程度の配当しか期待できないとされている。
破産手続開始の原因は、支払不能である(15条)。
「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に、弁済ができないという客観的な状態である(2条11項)。
「支払能力を欠く」とは、財産、信用、労務による収入のいずれをとっても、債務を支払う能力がないことをいう。
支払不能とは、弁済期の到来した債務の支払可能性についての問題であり、弁済期の到来していない債務については含まれない。
「一般的」とは、弁済することができない債務が債務者の債務の全部又は大部分を占めていることである。
「継続的」とは、一時的に支払いできなくとも、直ちに回復する場合を含まない。いわゆる一時的な手許不如意によって弁済できない場合は、継続的に、とはいえない。
法人については、債務超過も破産原因である(16条)。
「債務超過」とは、債務者の財産をもって債務を完済できないことである。
債務超過の判断には、信用、労力などは考慮されない。期限未到来の債務の存在も考慮される。
支払停止は、破産原因ではない。
「支払停止」とは、弁済能力を欠くために、弁済期が到来した債務を一般的かつ継続的に弁済できない旨を外部に表示する債務者の行為をいう。明示的か黙示的かを問わない。
支払停止のときは、支払不能が推定される(15条2項)(法律上の事実推定)。
支払停止が立証されたとき、支払不能が推定される。しかし、債務者は、支払不能でないことを立証して推定を覆すことはできる。