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任意後見契約の問題点

弁護士 永 島 賢 也
2010/02/10

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任意後見契約とは

任意後見契約に関する法律があります。この法律は、任意後見契約の方式や、効力等、任意後見人対する監督に関して定めるものです。
任意後見契約は、一種の委任契約であって、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任された時から効力を生じるものです(同法2条1号)。ですから、任意後見監督人が選任されない限り、任意後見契約の効力は発生しません。
任意後見契約は、公正証書によってなされ(同法3条)、任意後見契約は登記す ることができます。登記には、任意後見契約、任意後見契約の本人、任意後見受 任者の欄があります。たとえば、以下のような記載になります。

登記

任意後見契約
【公証人の所属】某 法務局
【公証人氏名】 甲 野 太 郎
【証書番号】  平成  年第  号
【作成年月日】 平成  年  月  日
【登記年月日】 平成  年  月  日
【登記番号】  第        号

任意後見契約の本人
【氏 名】   乙 野 次 郎
【生年月日】  昭和  年  月  日
【住 所】   
【本 籍】   

任意後見受任者
【氏 名】   丙 野 花 子
【住 所】   
【代理権の範囲】別紙目録記載のとおり

任意後見受任者として登記がなされると、一見、既に、任意後見契約の効力が発生しているように見えるおそれがあります。しかし、上述のとおり、家庭裁判所により任意後見監督人が選任された時から効力を生じるものです。

家庭裁判所への請求

では、どのような場合、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されるのでしょうか 。

それは、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときです(同法4条1項)。このようなときに、任意後見受任者が家庭裁判所に請求して、任意後見監督人が選任されるのです。この請求は、もちろん、任意後見受任者のほか、配偶者や4親等以内の親族、そして、本人自身でも請求することができます。
選任された任意後見監督人は、任意後見人の事務を監督し、家庭裁判所に定期的に報告しなければなりません(同法7条参照)。

あえて家裁に請求しないという問題

問題は、任意後見受任者が、本人の事理弁識能力が不十分になっているにもかかわらず(たとえば認知症など)、家庭裁判所に上述の請求をしない場合です。

現実には、任意後見契約とともに、任意代理契約やそのほかの契約なども締結している場合があり、たとえば、次のようなパターンがあり得るところです。
1 見守り契約+任意後見契約 (将来型)
2 見守り契約+任意代理契約+任意後見契約 (移行型)
3       任意代理契約+任意後見契約 (移行型)

つまり、日頃から、身の回りの世話をしつつ、任意代理人として活動していたところ、その後、本人の事理弁識能力が不十分になってしまったのに、家庭裁判所 への請求をせず、そのまま、自由に財産管理を継続させてしまうという問題です。

日本司法書士連合会の提言

この問題は、日本司法書士連合会でも、指摘されています。「任意後見制度の改善提言と司法書士の任意後見執務に対する提案」から引用すると、次のとおりです。

「近時、任意後見契約とともに広汎な代理権を付与された任意代理契約(移行型)において、本人の判断能力が低下した後も合理的な理由もなく任意後見監督 人の選任申立てがなされず、当該任意代理契約で財産管理・身上監護事務を継続し、本人や第三者の監視の目が届かない状態を意図的に作り出しているケースが潜行していることが問題になっており、財産被害の発生や適切な身上監護がなされていない濫用行為が存在するのではないかと危惧されている。」というものです。

その趣旨とする問題点を簡潔に述べるとすれば、任意代理契約で自由に財産の管理処分ができるのに、本人の事理弁識能力が不十分になったからと言って、わざわざ、手間と費用をかけて、家庭裁判所に後見監督人の選任を請求する動機がなさそうだということです。穿った見方をすれば、不当な行為をしようと思えば、後見監督人から監督されないで、自由に財産の管理処分ができる方がむしろ好都合だということになります。

最高裁判例


ところで、家庭裁判所から選任された未成年後見人が、業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に、刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないという最高裁判例があります(平成20年2月18日)。
つまり、たとえ刑法244条1項に定める親族であっても、後見人として家庭裁判所から選任された以上、本人の財産を横領しても親族間の自律による解決に委ねることはできず、処罰すべきであるという趣旨です。

この判例の趣旨が、任意後見人にも当てはまるとすれば、任意後見受任者が、本人の事理弁識能力が不十分となったにもかかわらず、後見監督人の選任を請求せず、その間、本人の財産を私的に流用してしまった場合、実質的には、家庭裁判所から後見監督人を通じての監督を受けるべき公的性格の後見事務をすべきであるのに、みずから請求しないことによってこれを免れ、かつ、親族相盗例の適用を受けて処罰を免れることまで意図することは許されないことになると思われます。

すなわち、任意後見受任者として登記され、後見監督人の選任を請求すべき時期にある者の横領行為等については、親族相盗例の適用を認めるべきでないのではないかと考えるのです。

                                   以 上

                                

         

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