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発想するパテントプールの行動学

弁護士 永 島 賢 也
2009/10/8

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パテントプールとは

 パテントプールとは、広い意味でいえば、ひとつかそれ以上の特許権を第三者にライセンスするための特許権者間の合意と定義できます。もっとも、通常、ライセンス会社が関与しているので、例えば、特許権等の保有者がその特許権等をライセンス会社に集積し、ライセンシーに対する再実施許諾権付きで実施許諾する合意と言ってもいいかもしれません(東京地裁平成14年6月25日判決、同15年6月4日判決参照)。

 公正取引委員会の定義では、ある技術に権利を有する複数の者が、それぞれの所有する特許等又は特許等のライセンスをする権限を一定の企業体や組織体(その組織の形態には様々なものがあり、また、その組織を新たに設立する場合や既存の組織が利用される場合があり得る。)に集中し、当該企業体や組織体を通じてパテントプールの構成員等が必要なライセンスを受けるものをいうとされています。

 パテント(PATENT)プールとされていますが、著作権など特許権以外の権利も 含まれうるとされています。つまり、パテントプールは、パテント(特許)に限らないということになります。

独禁法の適用除外

 独禁法は、著作権法、特許法、実用試案法、意匠法又は商標法による権利の行使と認められる行為にはこれを適用しないと定めていますが(21条)、特許権等 の行使に名を借りた濫用的な競争制限行為にまで独禁法の適用を除外する趣旨ではないとされています(大阪地裁平成18年1月16日判決)。知的財産保護の趣旨 を逸脱し、又は同制度の目的に反する場合には、21条の「権利の行使と認められる行為」に該当しないと解釈されています(公取審決平成13年8月1日)。

 実際、パテントプールの歴史は、独禁法と緊張関係をもってきたもので、市場支配の道具として濫用されるおそれと裏腹にあると言われています。PATENT POOLのPOOLとは、水たまりはでなく、本来、共同という意味ですから、いつも、私的独占や不当な取引制限等に該当するリスクがあるようです。

 もっとも、POOLを水たまりのように解釈し、PATENT POOL を「特許だまり」(集中、集積)のようにとらえるのも、かえってわかりやすいところがあるかもしれません。

RAND条件

 必須特許を保有する者で、パテントプールに参加しようとする場合、たとえば、RANDという条件を受け入れる旨表明します。RANDとは、Reasonable and Non-Descriminatory のことで、合理的かつ非差別的という意味です。その内容は、若干、曖昧な部分を残すかもしれませんが、各特許権者がそれぞれ実施料を要求し、それが積み上げられた料金よりも、ずっとリーズナブルで、かつ、ライセンスを受けようとする者を差別的に取り扱わないという意味に解釈することができます。

 もし、特許権者が、RANDを表明したとすると、いわば、低い料金で誰にでもライセンスすることになりますから、ライセンスを受ける側は有利になります。料金さえ払っていれば差止請求を受けるおそれがなく、しかも、 その料金は安いからです。

市場を創るバランスツール

 それでは、なぜ、RANDを表明するのでしょうか。それは、特許訴訟合戦になったりすれば、市場が荒れてしまい、結局、その技術が利用しにくくなり、自己の保有する特許権の価値が低くなって(無くなって)しまうので、これを避けるためといえます。

 現代では、有用な技術について、その関連特許まで全部1社で保有していることは少なく、権利が各社に分散して帰属するようになってきています。ですから、中核的な技術を保有している会社でさえも、他者からライセンスを受けなければ、技術全体を利用できない状況が生じているのです。

 各社が、それぞれ高額の実施料を求め、実施を拒否する強硬な態度をとれば(あるいは相互に特許訴訟合戦を演じれば)、その技術分野自体が見捨てられるか、早々に他の代替技術に取って代わられて、その技術の寿命を逆に短くしてしまいます。そこで、そのバランスをとるツールとしてパテントプールがひとつの選択肢となってくるのです。

 見方を変えれば、RAND条件を表明してパテントプールを作るという選択は、次善の策といえます。各特許権者が、各人で自己の利益の最大化を図れば、全体として市場を荒廃させてしまう結果は目に見えているので、そうならないように、 お互い一歩譲って考えているのです。

無防備になってしまう?


 他方、これほど市場のことを考え、技術が行き渡ることを希望して、あえて自己の権利価値の最大化を自粛したRAND表明者は、ある意味、無防備になってしまっている面があります。たとえば、誰にでも(ライセンス会社と通じて)ライセンスするということは、いったん、ライセンスしてしまえば、そのライセンシーに対しては差止請求できないことになります。そうだとすると、そのライセンシーが自己保有特許に基づきRAND表明者あるいはプール参加者に対して特許権を行使して差止請求を行った場合、ほぼカウンターを受ける心配がないという有利な地位に立つことができます。

 上述のように、権利の分散帰属が生じている状況では、自己の特許権を行使すれば、相手方もカウンターとして特許権を行使し、特許訴訟合戦に発展する可能性がありますが、先方がRAND 表明をしている以上、逆に、特許権を行使されるリスクがなくなるのです。これは、ある意味、不公平な部分があります。

 ですから、ライセンス契約する際に、そのライセンシーになろうとする者が、その保有する特許をプール参加者(そのライセンシーも)に対して行使しないとする条件をつけるのもやむを得ないとみることができます。あるいは、そういう場合は、当該訴訟が終了するまで、プールへの参加を解除して、自己の保有特許を引き出して、対抗することができるようにすることも考えられます。

ひとりだけアウトサイダーの誘惑

 このようにパテントプールにまつわる利害関係は、ひとりだけプールに参加せず、いわばアウトサイダーとなって、市場を創りあげてくれたプール参加者を踏み台にして、自分だけ高額の実施料(ロイヤルティ)を獲得しようという誘惑を産みます。

 ひとりだけアウトサイダーになれば、ライセンシーは、プールからの安価なライセンスを受ける共に、そのアウトサイダーに対しても比較的高いライセンス料を払うことになるでしょう。アウトサイダーがひとりなら、それも我慢できるかもしれませんが、それならということで、どんどんアウトサイダーが増えてしまえば、もともと、パテントプールを作って守ろうとした市場の荒廃を招くことになってしまうでしょう。

 他方で、アウトサイダーを絶対に許さないという仕組みを作れば、今度は、独禁法上の問題が生し、これもうまくいきません。独禁法は、必ずしも、アウトサイダーに辛口にはなれないという部分もあります。

二大パテントプールの時代


 ですから、パテントプールも二大政党制の時代がくるかもしれません。ライセンシーは、 ふたつのパテントプールからライセンスを受ける必要がありますが(いわばツーストップサービス)、特許権者としては、自己が属するプールの条件に不満があるなら、他のプールに乗り換えることができ、相互に、行き来できれば、「ひとりだけアウトサイダー」の発生リスクを減らせるかもしれません。プール相互で、契約条件を競争することにもなり得ます。

 

                                 以 上

         

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