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ディスカバリ

2008/6/27 弁護士 永島賢也
 Kenya Nagashima Attorney at Law

★ 2008/6 米国視察メモから・・・           >> NEXT

ディスカバリ

ディスカバリ(Discovery)とは、証拠等の情報開示手続のことです。訴訟が提起されると、この手続により、訴訟の当事者は、有利不利を問わず、相手の有する証拠(情報)を取得することができます。


今回の調査の結果、ディスカバリという制度は、完全に実務に根付いており、費用がかかるなどの様々な批判も、同制度を廃止しようとする意見ではなく、あくまで、ディスカバリという制度を前提として、その運用に関するものにとどまることがわかりました。現場では、いまさら、ディスカバリ以前には戻れない、あるいは、腹の探り合いでは和解にもならない、などの意見に、多数接することになりました。


現在(2008年)のベテラン弁護士は、ディスカバリのなかったころの実務を経験しています。そのころの民事訴訟を振り返って、「不意打ち事実審(surprised trial)」 の時代だったと述べています。トライアル(trial)になって、不意打ちの証拠が提示され、そのたびに混乱することが多かったそうです。

ディスカバリの機能

ディスカバリの機能は、単に証拠を開示する手続にとどまっていません。むしろ、争点整理手続(当事者間の対立する点をはっきりさせる手続)そのもの、と言ってもよいかもしれません。それどころか、さらに、進んで、トライアル化(事実審の準備段 階を超え、事実審そのものとして、事実審と同じ価値のある手続)しているともいえます。確かに、対立する当事者が、双方の手持ちの証拠を見せあえば、ここがポイントになる、というところがはっきりして、争点が明確になるのは自然なことです。


実際に、トライアル(trial)に持ち込まれる事件は、少ないそうです。手持ち事件の1 割以下、印象としては2〜5%程度しか、トライアル(陪審制です)には行かないそうです。双方の証拠を確認してしまえば、話し合いで解決する(あるいは、話し合いで 解決せざるを得ない)事件が、大多数といえるようです。


しかし、当然のことながら、自分に不利な証拠は出したくありません。これは、米国も我が国でも変わりはありません。今回の調査の結果でも、なんとか、開示しないように画策する者や、開示する時期を巧妙に遅らせるなどトリッキーな活動をする者がいることがわかりました。このような行為は、場合によって、裁判所からsanctionを受けることがあります。

デポジションなど

ディスカバリには、デポジション(証言録取・deposition)、インタロガトリーズ(質問書・interrogatories)、プロダクションアンドエントリー(文書提出/立ち入り・ production and entry)などがあります。


質問書を出して回答を得、相手方の所持する書類を手に入れ、そのうえで、相手方証人(あるいは当事者本人)を自分の事務所に呼ぶなどして、証言を録取(最近はビデオ撮影する)することが多いそうです。


更に、戦略的に、早い段階で(あるいは真っ先に)相手方本人や重要証人を呼んで証言をビデオ撮影し、ストーリーを作出できなくしてしまうこともあるそうです(いわゆる証拠の汚染を防ぐ 目的です。)。デポジションで、「知らない」と証言したことは、トライアルで証言することができなくなります。


デポジションでビデオ撮影をしておくと、その証人(本人)の態度や仕草から、陪審員に対する印象の善し悪しまで、あらかじめチェックすることができます。つまり、 何を言うかということと、それをどうやって表現するかということとは別だということです。


SF実際、デポジションで撮影した映像を英語のテロップ付きで陪審員に見せるシーンも 今回の調査で傍聴することができました(まさに映画のように法廷を暗くして、6畳くらいの銀幕に映し出していました。)。

つまり、デポジションが、そのままトライアル化しているともいえるのです。

 

被告にとってのディスカバリ

ディスカバリは、被告にとっても、重要な武器です。交通事故の損害賠償を提起された場合、被告は、原告が、普段、通院していた医師から証言を得ることもできます。 詐病の主張は通用しません。つまり、攻撃は最大の防御になります。また、金銭的な損害を確定するため、原告の雇用状況(給与額など)を調査することもできます。


もっとも、医師から証言を録取するには、医師の時給を支払わなければなりません。 サンフランシスコの法律事務所での経験では、1時間400〜600ドルかかることがあるそうです。比較的高額ですし、喜んで応じる医師もいるとのことです。

秘匿特権とワークプロ ダクト

ディスカバリで、開示される範囲は、比較的広範囲に及びますが、他方、その例外として開示義務から除外することが認められる情報があります。秘匿特権(Privilege)とワークプロ ダクト(work product)といわれるものです。

秘匿特権には、たとえば、自己負罪拒否特権に含まれるものや、配偶者間、弁護士と依頼者間、医師と患者間などのやりとりに関する情報などが含まれます。弁護士と依頼者との間でのみ交わされた書類やe-mailなどは、開示しなくともよいことになります(attorney-client privilege)。もっとも、それが、リーガルアドバイスを求めたものであること、そのコミュニケーションがコンフィデンシャルなものであること、など、いくつかの要件がありますので、実際の判別には、専門家のアドバイスを受ける必要があります。

また、ワークプロダクトとは、当事者や弁護士その他の関係者が訴訟のために作成した文書等については、開示しなくともよいとするものです。訴訟に対処するため準備した情報に、相手方当事者がアクセスすることを認めると、いわば、まじめな相手方の努力にただ乗りを認めることになってしまうから と説明されています。そのものが、訴訟を先取り(anticipation)し、または、トライアルのために準備されたものかどうか、などの要件をクリアしなければなりません。

プロテクティブ・オーダー

ディスカバリに関連して、プロテクティブ・オーダー(Protective Order)という保護命令の制度があります。たとえば、嫌がらせ、抑圧的、過大な負担をかけるなど不当な開示請求を禁止し、または、部分的に制限することができます。

たとえば、営業秘密(trade secret)は、営業秘密だからという理由で開示しなくてもよいとは考えられていませんが、その情報の必要性に応じて、相手方弁護士限りで閲覧し、第三者への 伝達を禁止するなどの条件を付することができます。

たとえば、証言録取などで情報を開示したくない側は、質問が、抑圧的だ、威圧的だと言って、制限しようとする場合があります。

コミッショナー

ディスカバリに関する争いがある場合、裁判所が介入しますが、カリフォルニア州の 上級裁判所では、コミッショナー(Commissioner)という地位が設置され、既にディスカバリは終了したのかどうかや、開示範囲に争いがないかなどの問題に対処しているそうです。

開示を拒否された側の当事者は、これを、コミッショナーに申し立てることになるのですが、開示決定がなされた場合、この手続費用は、相手方が負担することになるので、費用負担を避けて、代理人同士で折り合いをつけることも多いらしく、直接、代理人同士での合意を促す効果があるそうです。

同裁判所には、コミッショナーが14名所属し、そのうち2名がディスカバリに関する委員になります。弁護士として10年以上の実務経験のある者が面接を経て、51名の裁判 官の投票によって選任されるそうです。コミッショナーの給与は、裁判官の給与より、若干、少ないくらいだそうです。

プロテクティブ・オーダーは、このコミッショナーが出しているそうです。

裁判所は、場合によっては、コミッショナーがかかわる前に、非公式に代理人同士が話し合う場所を設けることもあるそうです。

企業秘密(trade secret)

企業秘密(特許権やノウハウ)が、他社に利用されていると疑われる場合、ディスカバリがなければ、相手方企業の実態はわかりません。ディスカバリで、相手先企業の 工場に立ち入り、製造過程をチェックすれば、その実態を把握することができます。 現に、工場立入調査が実施された例はあるそうです。

特許訴訟において、侵害物件の特定やその技術内容が立証できないため、敗訴してしまうとすれば、特許を取得した企業にとって、特許にかかる技術情報を公開し、他の企業がそれを利用することができるのに、その見返りとなる当該技術に関する独占的権利は空洞化してしまうという、わりに合わないことになりかねません。

実体的真実と和解促進

もし、商品の需要者から訴えられ、弁護士が、被告代理人として訴訟防御をするとき、依頼者である企業(被告)の製作した商品が、法的に定められたテストを経ていなかったことを発見した場合(たとえば、200時間の耐久テストが必要とされて いたにもかかわらず、これが一切されていないか、テストに改ざんの跡が認められるなど)、そのような内部資料をディスカバリで開示すれば、手痛い結論になるのは目に見えています。まして、当該製品の故障により人が死亡しているなど重大な結果が発生している場合であれば、企業の存亡にもかかわる事態というべきです。

このとき、ディスカバリがなければ、証拠を隠す方に動機付けがなされるおそれがあります。言を左右に、問題点を拡散させ、時間をかけさせ、曖昧に処理するという訴訟戦略が選択されるかもしれません。

しかし、ディスカバリがある以上、この選択肢はとれません。ディスカバリ以前に、早々に和解を提案するしかないのです。これは、ディスカバリ制度が実体的真実に近いところで和解を促進させる機能があるという意味になります。

ディスカバリの数量制限

現在、ディスカバリの開示に対し、数量制限が定められています。証言録取は10件まで、質問書は25項目までとされ、証言録取の時間も7時間とされています。もっとも、 事案によって、数量を拡大することは認められています。

昔は、何日もかけて証言録取をしていたこともあるそうです。原告も被告に対し、開示請求しますが、被告も原告に対し、カウンターとして、開示請求しますので、双方 代理人が、時間や費用など折り合って、合理的な範囲に絞られて行くことも少なくないそうです。双方に対等な武器がある以上、話し合いも進みやすいということなのかもしれません。

e-Discovery(電子的記録に関する開示手続)

今日、ディスカバリの手続を、いっそう、手間がかかるものにしていることがあります。電子的に保存されたデータの開示です。e-mailのやりとりがなされることは、日常茶飯事です。これらのデータも開示対象となるのですが、その対応のため、延べ 100人の弁護士が、5万3000時間かけ、232ギガバイトの情報(229万ページの情報)を チェックし、13億円以上の費用がかかったというケースがあるそうです(ベライゾン 事件)。もっとも、弁護士に支払った報酬額が高いのではないかという見方もあるようです。

電子データのチェックに手間がかかるということになると、これをビジネスとする会社も生まれてきます。今回は、メリル・リーガル・ソルーション(Merrll Legal Solution)社を訪問しました(135 Main Street Suite 400 San Francisco, CA 94105 Phone 415.357.4300)。

サンフランシスコ


ディスカバリの準備のため、クライアントである会社(たとえば、被告)からe-mail システムの内容などを聴取してデータの収集のプランを作成すると、実際に、会社を 訪問してファイルサーバからデータを収集したり、オンラインで収集したり、あるいは、会社内にあるラップトップから収集したりするそうです。

次に、収集した情報に、固有の番号を付し、整理します。このやり方が、やはり、システムエンジニアならではのものです。たとえば、最初の電子データが、その後、修正されて保存されたときは、修正前のデータと、修正後のデータでは、付される番号が異なります。つまり、別個の文書として取り扱われます。また、全く、同一の文書(単なるコピー)は、同じものを複数提出する必要はありませんから、除外する作業が行われます。

次に、整理されたデータから、開示対象になるものを絞る作業に入ります。 これは、 法的判断が必要です。すなわち、秘匿特権が認められる情報かどうかを、弁護士がチェックするのです。これを行うために、収集整理されたデータをWEBベースでサーバに アップロードし、IDとパスワードをもつ弁護士が、アクセスし、除外作業を行ってい くのです。

本来、秘匿することができる情報を、いったん、開示してしまうと、それ以降、その情報を秘匿することができなくなってしまいますから、重要です。うっかり、開示すると、他の事件でも秘匿できなくなってしまいます。

ポイントは、会社と弁護士との間でやりとりしたe-mailを、CCにしたり、転送したりして、第三者にも見られる状態にしないことです。弁護士とのやりとりは秘匿特権がありますので、開示しなくてもかまわないのですが(会社にとって不利な事実も正直に話さなければ適切な弁護士の活動ができませんが、これが開示の対象になるとすれば、萎縮してしまうおそれがあります)、これが第三者にも送信されているとすれば、それは、秘匿特権の対象にならなくなります。かならず、弁護士と依頼者との間で行うべきものです。

インターネット関係の事業を行っている会社(例えば、検索等のサービス等を提供しているポータルサイトなど)は、場合によって、訴訟当事者ではないのに、そのサーバに保存されているe-mail データを開示しなければならなくなる場合があります。そのことを前提に、既に、会社内部に、専門部署を用意している会社も存在します。

このように、ある企業では、いつでも、ディスカバリに応じることができる体制で、会社内の文書を整理保管しているのです。これが、法的な観点とりいれたコーポレート・ガバナンスの一形態というべきものです。

日本の企業であっても、北米市場で商品を製造販売するなどの活動を行っている場合は、ディスカバリに即応できる形式で、電磁的な記録を整理、保管するシステムを構築しておく必要性が高いといえます。対応が遅れたため、証拠を隠していると疑われ、裁判所侮辱という制裁を受けると、相当に手痛いダメージを被ることになってしまいます。

最近の例

最近の例としては、ニューヨーク地裁での、バイアコム(VIACOM INTERNATIONAL INC.,)とユーチューブ(YOUTUBE INC, YOUTUBE LLC)、グーグル( GOOGLE INC.,)の例があります。要するに、グーグル側が、ユーチューブの内部データの提出を裁判所に命じられたというものです。

> バイアコムvsユーチューブ間の命令(PDF)

例えば、The motion to compel production of all data from the Logging database concerning each time a YouTube video has been viewed on the YouTube website or through embedding on a third-party website is granted; など判断がなされています。

(訳)「ユーチューブのビデオが、ユーチューブのウェブサイトで、または、それが他の第三者のウェブサイトに埋め込まれることによって視聴されてきた各時間に関し記録されているデータベースからのすべての情報について、それを提出させる申し立ては、これを認める。」

依頼者の抵抗

ディスカバリという制度に対し、弁護士ではなく、依頼者である一般人ないし一般企業は、どのような印象を持っているでしょうか。この点に関し、いくつかの話を弁護士から聴くことができました。

依頼者によるディスカバリに対する要望は、なるべく、要点を絞って開示をするように言ってほしい、証言録取については少ない時間でやってほしい、e-Discoveryに対してはe-mailの提出についてe-mailがやりとりされた期間を絞って開示を求めてほしい、プロテクティブオーダーを出してほしいなどが、あるそうです。

そのほか、ディスカバリの前に、訴訟を終了させるようにしてほしい、訴状の提出段階で、請求を却下してもらう方法を検討してほしい、などもあるそうです。イニシャルディスクロー ジャー(Initial disclosure)についても、相手方の訴訟活動を、なぜ、こっちがで助けてやらなければならないのか、などのクレームもあったそうです。

このような依頼者の反応はごく普通に予想できる範囲内のもので、我が国においても、何らかの理由で証拠を開示しなければならない状況においては、おそらく、同様な反応がありうるところでしょう。

制裁

それでも、最終的には、開示に応じるのは、なぜか、ということですが、やはり、サンクション (ないしペナルティ)が厳しいという点を指摘できると思います。

開示義務があるとされたにもかかわらずこれに応じない当事者や第三者に対しては、 裁判所は、「法廷侮辱」という制裁を科すことができます。

更に、当事者にとっては、 たとえば、不利な認定を受けるという場合もあり、あるいは、開示対象となった証拠が、あたかも、その通り存在し、裁判所に提出されたと同様の事実認定をされる場合もあるそうです。

問題のある開示請求、開示履行、異議申立に対しては、たとえば、 そのために相手方にかかった費用(この費用には、相手方の弁護士報酬も含むことがあります)を負担させるなどの制裁が科せられます。相手方の弁護士報酬まで負担しなければならないのは、相当に重い負担となります。ある訴訟では、問題となる証拠が開示されなかったことが判明した後、法廷侮辱として何億円ものペナルティが課されたケースがあるそうです。

弁護士としては、開示に抵抗する依頼者に対しては、上記のペナルティの存在を説明し、説得して提出させるようにしているけれども、それでも、応じない場合もあり、 そのときは、ディスカバリ以前に和解を成立させてしまうか、代理人を辞任するそうです。

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