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アップル対サムスン 判決 (日本)

弁護士 永 島 賢 也
2012/09/06

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アップル対サムスン東京地裁判決

  平成24年8月31日、東京地裁は、原告アップルインコーポレイテッドと、被告日本サムスン株式会社同サムスン電子ジャパン株式会社との間の訴訟につき終局判決を言い渡しました。

中間判決と終局判決

 判決言渡前、中間判決がなされるとの報道がなされていました。この中間判決とは、終局判決の対概念であって、当該審級を終了させるという効果をもちません。本来、中間判決は終局判決を準備するためになされるものです。
 中間判決の対象となるのは、独立した攻撃防御方法、その他の中間の争い、及び請求の原因です。このうち、請求の原因について、その原因の存在を認める中間判決を原因判決と呼び、逆に、その原因の存在が否定されるときは中間判決ではなく、終局判決がなされることになります。今回の判決はこれにあたります。

 端的に言えば、中間判決(原因判決)がなされるならばアップル社の勝訴の可能性が高まり、逆に、今回のように中間判決ではなく終局判決がなされるならば、アップル社の敗訴という結果となります。
 つまり、通常、「中間判決(原因判決)がなされる」という表現自体に、原告に有利な判断がなされるというニュアンスが含まれているのです。正確には、判決が言い渡されるまでは中間判決か終局判決かはわからないということになります。

控訴期間と付加期間

 終局判決に対しては上訴が可能ですが、中間判決に対しては独立の不服申立は認められていません。今回の判決は終局判決なので控訴が可能となります。
 判決主文では控訴のための付加期間として30日が定められています(通常は2週間)。民事訴訟法は、住所が遠隔地にある者に公平に不服申立のための熟慮期間を保障する趣旨で付加期間の制度を設けています(同法96条2項)。
 判決文には理由の明記はないようですが、原告のアップル社は米国カリフォルニア州の企業であり遠隔地であるから、付加期間を認めたものと思われます。

 * その後、平成24年10月15日、アップル社は控訴したとのことです。
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特許

 アップル社の特許発明は、特許番号第4204977号であり、インターネット上で検索できます(IPDL、http://www.inpit.go.jp/ipdl/service/)。また、最高裁判所のホームページで判決文をダウンロード(PDF、http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120905110711.pdf)することができます。以下は、公開された判決文と特許公報から考えたものです。

構成要件

 上記資料によれば、本訴では、請求項11、13、14の特許発明が対象となっていることがわかります。いずれにも共通の構成要件に「プレーヤーメディア情報」「ホストメディア情報」という用語があります。発明の詳細な説明を考慮して、この用語の意義が解釈されているようです。東京地裁は、アップル社の本件発明はメディア情報の比較に基づいてメディアアイテムをシンクロする方法を採用したものと認めています。メディア情報とは、メディアアイテムの属性又は特徴をいい、そこには少なくともタイトル名、アーチスト名及び品質上の特徴を備えるものとされます。この品質上の特徴には、ビットレート、サンプルレート、イコライゼーション設定、ボリューム設定、及び総時間のうちの少なくとも1つが含まれるとされます。

ポイント

 この判決のポイントは、本件発明をして一般的なファイルに備わるファイル情報ではなく、タイトル名などの属性、あるいは、ビットレートなどの品質上の特徴というメディア情報に着目したもの、と理解しているところにあります。

 つまり、メディア情報とは一般的なファイルに備わるファイル情報ではないのです。メディア情報とは、メディアアイテムに特有の情報を意味するとされています。ここで、メディアアイテムとは、要するに音楽とかビデオ、画像などメディアプレーヤーで再生可能なコンテンツのことです。このことによって一般的なファイルに備わるファイル情報を比較したシンクロは本件特許発明の技術的範囲には属しないという前提が用意されたことになります。

 一般的なファイルに備わるファイル情報としてファイルサイズの情報があり、サムスン社の製品がファイルサイズを比較してシンクロが行われているのであれば、メディア情報を比較したシンクロではないので、特許権侵害ではないということになります。

証拠

 実際、サムスン側から、Kies*というソフトウェアを利用したシンクロにつき、音楽ファイルのタイトル名、アーチスト名、品質上の特徴である総時間の全てが異なっていてもファイル名とファイルサイズが同一である限り、音楽ファイルのシンクロが行われていないというテスト結果が、証拠として提出されたようです。

 他方、アップル社は、このサムスン社側のテスト結果と矛盾するテスト結果を提出しているようです。つまり、サムスン社の製品がタイトル名、アーチスト名、総時間を比較してシンクロしているようにみえ、東京地裁も、そのようにみえることは認めています。

 しかし、ここで東京地裁は鋭利な論理でアップル社側のテスト結果を切り捨てます。アップル社側のテストで用いられたタイトル名、アーチスト名、総時間が異なるメデイアファイルについて、それぞれのファイルサイズが同一であることは何ら示されていないというのです。つまり、サイズが同一のタイトル名、アーチスト名、総時間が異なるファイルを使って実験した結果でなければ、サムスン社の製品がファイルサイズを比較してシンクロしているという可能性を否定できないということです。

精密審理

 これは、精密な審理がなされるがゆえにかえって権利者側の請求が認められにくくなっている例といえるのかもしれません。というのは、タイトル名、アーチスト名、品質の特徴のひとつである総時間を比較してシンクロしているというテスト結果では足りず、更に、ファイルサイズでは比較されていない、という相手方の言い分を潰す証拠を用意しないと不十分とされているように見えるからです。

 ただ、サムスン社の反論はファイル名とファイルサイズを用いてシンクロしているという趣旨ですから、この主張を支えるには、タイトル名、アーチスト名、総時間が同一で、ファイル名、ファイルサイズが異なるデータでシンクロが起きるというテスト結果が必要なのではないかと思われます。タイトル名、アーチスト名、総時間が異なり、ファイル名、ファイルサイズが同一であるファイルにシンクロが起きないというテスト結果は、アップル社によるタイトル名、アーチスト名、総時間が異なるデータでシンクロが起きるというテスト結果の一部を否定するにすぎず、それ以外については、いまだ本件特許の技術的範囲に入っている部分が残っているようにも見えるからです。特許法上、一般論としては、被告製品が、少なくとも、タイトル名、アーチスト名、総時間を比較してシンクロさせている以上、更に、これに加えてファイルサイズを比較していても本件特許発明の技術的範囲に属するものとはいえます。

メディア情報 

 そして、東京地裁は、メディア情報にはファイルサイズは含まれないとします。ファイルサイズという情報は、ファイル名やファイル更新日と同様に、ワードやエクセルなど通常のファイルに一般的に備わるものであって、音楽ファイル等のメディアアイテムに特有の情報とはいえないからということです。

 もっとも、ファイルサイズという情報が、ファイルに一般的に備わる情報であれば、メディアアイテムにも備わる情報といえます。つまりメディアアイテムもファイルサイズという属性情報をもつことになります。発明の詳細な説明【0055】には、実施例においてメディア情報は、曲目、アルバム名、アーチスト名のような少なくとも記述的な属性を含むと記載されています。メディア情報という用語が少なくとも記述的な属性に関する情報を含むという趣旨で解釈されるのであれば、ファイルサイズという情報が記述的な属性情報なのか検討すれば足りるのかもしれません。

雑感

 こうしてみると、通常の一般的なファイルの属性情報を比較したにすぎないというクールでない技術によりサムスン社は特許権侵害を免れることになりそうに見えます。二番煎じが一番儲かるビジネスとされ、二流品を安く売るビジネスが結果的に勝利するのであれば、特許法の目的である産業の発達に寄与する結果となるのでしょうか。

 ところで、一般論としてワードやエクセルのファイルが通常のファイルといえるのかどうかは気になるところです。また、判決が、たとえば「  」付きの「ファイルサイズ」という用語と、「  」がないファイルサイズという用語を使い分けているように見えるところにも興味があります。

* Kiesのバージョン情報は判決書からは不明です。サムスン側が実験に使用したソフトウェアは、どのバージョンなのかという問題です。

                                   以 上

                                

         

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