イギリス個人信託
弁護士 永 島 賢 也
2008/11/25
講 演 会 弁護士リチャード・モイス氏
イギリス個人信託の現状と課題
平成20年11月14日(月)、秋葉原ダイビル14階にて、Richard Moyse 氏をお招きし、The use of private trusts in the United Kingdom と題して、英国での個人信託の現状と課題とする講演会が開催されました。
筑波大学大学院の個人信託研究会と中央大学ビジネススクールの共催によるものです。
当事務所所属の新井誠教授の開会宣言後、約2時間ほど、通訳付きのお話を聞くことができました。
The development from century to century of the trust idea
冒頭、英国で最も高度に発達した法学は何かと尋ねられたとすれば、世紀を超えて発展してきた信託の概念をおいて、他に回答すべき答えを知らない、という言葉で始まりました。
法的な所有権と利益の享受の分離
信託法の中核にある考え方は、 The common law trust separates legal ownership from beneficial enjoyment. (コモンロー上の信託は、利益の享受を法的な所有権から切り離している)ことにあります。
信託には、3つの地位があり、それは、Settlor,(委託者) Trustee(受託者), Beneficiaries(受益者) です。
歴史的には、”use” が、信託の起源となったとされています。たとえば、反逆罪に問われたAが、隣人のBに ”use” した場合、Aには財産がないため没収の対象がないことになります。国王は、なんとか “use” の効力を失わせようとしたこともあるそうです。
今日の個人信託のタイプとしては、1 Life interest ( or interest in possession) trust, 2 Discretionary trust(裁量信託), 3 Accumulation & Maintenance trust(蓄積管理信託) と、これらのHybrid 版があります。
1は、たとえば、Aに対し、Aの生涯にわたって利益を支払い、残りはBへという例があり( to pay the income to A for his life, with reminder to B ) 、2は、受託者の裁量権(処分権能)があって、受益者は利益について法的な権利を持たないものです( Income and capital are allocated entirely at the discretion of the trustees amongst a defined class of beneficiaries - beneficiaries have a hope not a legal right benefit)。
離婚と信託
英国では、最近まで離婚天国と言われるほどの状態でしたが、裁判所によって、ここ30年ほど継続してきたやり方が覆されてしまい、これが、現在、ホットな話題となっているそうです。つまり、信託財産も、離婚時、分配の対象となる財産(resource)に含まれるという解釈の方向性がみられるとのことです(「Charman事件」・・・バミューダのドラゴン・トラストの信託財産も含めて離婚時に妻に分配すべきかどうか、が争われた事例)。
信託以外の方法?
いずれにせよ、いまだ成熟した大人とは言えない者(those who are immature)が、莫大な財産にアクセスすることへの抵抗感は依然として強く意識されているようで、これを解決する手段としては、信託以外に、うまい方法がないというのが現状のようです。
リーガルサポート
我が国においても、財産を残す者の憂鬱を少なくする方策が模索されている最中です。たとえば、先天的な疾患を有する者や知的障害者に対し、安心して財産を残す方法はないか、難しい問題は残されたままといえます。
以 上
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