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家事審判法の見直し

弁護士 永 島 賢 也
2008/6/25

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婚姻費用分担の特別抗告事件(最高裁)

平成20年5月8日、最高裁判所第三小法廷は、婚姻費用分担審判に関する特別抗告事 件について、抗告を棄却しました。これは、婚姻費用の分担に関する審判の抗告審 が、抗告の相手方に対して、抗告状や、抗告の理由を書いた書面を送達せず、相手方 に反論する機会を与えないまま、不利益な判断をしたという点につき、裁判を受ける 権利が侵害されているのではないかという問題です。

最高裁の多数意見は、裁判を受ける権利と直接関係がないと述べ、抗告を棄却して います。ただ、「即時抗告の抗告状及び抗告理由書の写しを抗告人に送付するという 配慮が必要であった」として、「原審の手続には問題があるといわざるを得ないが、 この点は、特別抗告の理由には当たらない」としています。

手続の濃淡

これに対し、那須弘平裁判官は、裁判長として、みずから反対意見を書いていま す。その内容は、婚姻費用分担という争証性の強い審判類型には、純然たる訴訟事件 ではないとしても、憲法32条が保障する審問請求権ないし手続保障の対象となるべきとするものです。

裁判を受ける権利は、性質上固有の司法作用の対象となるべき純然たる訴訟事件に つき裁判所の判断を求めることができる権利のことをいうとされています(最高裁判例)。ただ、性質上純然たる訴訟事件にあたらないもの(非訟事件)についても、この裁判を受ける権利と近い関係にあるものから、遠い関係のものまで、濃淡があると考えるのが妥当と思われます。

非訟事件であれば、およそ手続保障は不要であるとい う発想はないと思われますが、非訟事件の中において、どのような事件について、どの程度の手続保障が必要なのかという問題に取り組むべき時期に来ていると思います。

それぞれの手続

現行家事審判法は、審判事項を、甲類と乙類に分けています。甲類は、争証性のない事件、乙類は、争証性のある事件とされています。つまり、甲類と乙類の分類は、 対象となる事件の争証性の有無(二当事者が対立する構造かどうか)で分けられているといえます。

しかしながら、甲類に対応する手続はこれこれで、乙類に対応する手続はこれこれというように、それぞれ、事案の争訟性に応じた手続は用意されておりません。

甲類と乙類の違いは、調停ができるかどうかという区分になっています。家事審判法17 条但し書きは、第9条1項甲類に規定する審判事件については、この限りでない、として、家庭裁判所が、甲類について調停を行わないとしています。

つまり、争訟性の 程度で区分された甲類と乙類が、結局、調停ができるかどうかという差で区別されているといえます。

本来、争訟性の高い乙類については、それにふさわしい、手続が用意されていてしかるべきではないかと思われます。

東京高裁決定

平成15年7月15日の東京高裁決定(判例タイムズ1131号228ページ/子 の監護者指定の決定において家庭裁判所調査官の調査と監護者決定の基準が問題となった事例)は、上記の手続に関する問題に光を当てたともいえます。

これは、夫婦と子供2人の家庭で、子供を残して妻が実家に帰った後、妻が夫に対 し、離婚等の調停を申し立て、更に、子の監護者は妻であるとして、夫に対して二人 の子供の引渡を求める審判を申し立てたものです。

そして、離婚等の調停の手続がなされているなか、審判がなされ、妻を子の監護者として、夫に対し、2人の子どもを引き渡す旨の判断がなされました。

これに対し、夫側が、東京高裁に抗告を申し立てことに対する判断が、上記東京高裁決定です。

判断内容について

原審(横浜地裁川崎支部)は、当事者の審問をせず、家庭裁判所の調査官の調査報 告書を唯一の資料として判断している点、その調査報告書自体、妻側に偏った調査 や、不必要な調査がなされている点などが争われました
。 
東京高裁は、当事者の審問がなされていないことを認め、この種の事件においては、双方の審問をすることが望ましいとも述べましたが、結論としては、調査官の調 査報告書に依拠して判断したとしても、原審判を取り消して、差し戻すべきものとま ではいえないとしています。

また、調査報告書については、夫婦間の別居に至る紛争経緯やその原因などに関する記述が多く、これに重点が置かれているように見えないではなく、子の監護の判断 要素として、これほど詳細な記述が必要であるか否かについては、疑問なしとしないと述べ、当該調査報告書の内容について、疑問を呈していますが、原審判が、夫婦間の別居に至る経緯に重点を置いていないと認められるので、とりたてて問題となることではないとしています。

また、調査報告書が、母と未成年の子らの交流状況の観察から、当該子らには母性の要求が満たされておらず、これを必要としていると判断を示しているにもかかわらず、交流状況のいかなる部分からこのような判断がなされたのか必ずしも明らかでないと述べています。つまり、調査官に母親優先の原則による思いこみがあったのではないかという疑問に対抗できる程度の根拠が示されていないということになります。

東京高裁では、新たに、夫側から、専門家の意見書が提出されています。これは、 子のテスト中、「くまちゃんカード」の絵を示しての質問に、子が「お母さん」と言ったことをとらえて、子が母を慕っていると認定しているとみられることに対する反論です。同意見書によれば、子の「お母さん」という言及は、別居中の母親そのものを示すものではなく、広く生活の中で享受してきた普遍的イメージ「母なるもの」 「母性的なもの」とも考えられるとして、直ちに、現実の母への思慕の表出とは捉えられないというものです。

東京高裁は、この意見書の反論に対し、子が、夫(父)やその両親に対する配慮からあえて「ママ」という直接的な呼称を避け、「おかあさん」と答えたことは、内心 では母に対する思慕の情を抱きながら、父に対する愛情や配慮からそのような真意を なるべく包み隠そうとする未成年者らの心情を読み取るべきで、最善の利益は、母性に日常的に接することと判断されるとしています。

見合うだけの手続保障

思うに、これだけの精緻な事実認定を行い、理由付けをするのであれば、もともと、それに見合うだけの手続(たとえば、双方から直接事情を聴取するような手続など)が用意されてしかるべきではないかと思われます。

そういう意味でも、本来、乙類の争訟性の度合いに対応した手続が規定されていることが望ましいのではないかと考えます。

なお、子が、「ママ」と言わず「おかあさん」と答えたことが、夫側に対する配慮であったとしても、その真意は、おそらく、母親と父親とが、以前のように仲良くしていてほしいというところにあったのではないかと思われます。

 

 

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