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筆界特定制度(2004/8)

弁護士 永 島 賢 也
初稿2004/08/24

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境界確定訴訟は廃止されるのか?

現在(2004年8月)、新たな土地境界確定制度の創設に関する要綱案が作成され、各方面より意見が集められているところです。

この制度は、それまで、司法裁判所において行われてきた境界確定訴訟を廃止するものでした。すなわち、境界確定登記官が、境界確定委員会の意見を踏まえて、境界確定の処分をするというものです。この境界確定処分に関する不服は、行政事件訴訟法の定めるところに従って取消訴訟等の抗告訴訟によるというものです。

形式的形成訴訟とは

境界確定訴訟は、講学上形式的形成訴訟のひとつと解されています。通説判例は、これを、公簿上の地番と地番の境界(筆界)を定めるもので所有権は関係しないとの立場を一貫させつつあります。しかし、境界確定訴訟の提起によって係争地の所有権について取得時効は中断されるとし(最高裁昭和38年1月18日判決)、また、当事者適格は隣接する土地の所有者同士にあるとして(最高裁昭和58年10月18日判決、同平成7年3月7日判決)、所有権との関係を切断しきれてはいません。

私的所有権の境も確定されるか

境界確定の訴えというものはローマ法以来存在するもので、ローマ法でもドイツ法でも境界線の確定は、同時に私的所有権の境を確定すると理解されており、また、ドイツの通説は、今でもそのように解しているそうです。

もっとも、境界確定訴訟には特殊性があり、それは、いずれの当事者からも境界線を証明することが困難になるのが通例であり、通常の民事訴訟における証明責任の分配によって処理するのに適しない点にあります。

通説判例の源

では、どうして、我が国においては、所有権と切り離しして公簿上の境界線(筆界)のみの確定という考え方が通説・判例となったのでしょうか。

それは、所有権を対象とする訴訟だとすると、当時の裁判所構成法が境界確定の訴えを常に区裁判所の管轄としていたことと整合しないとされたことにあるようです。所有権確認であれば、訴額によっては地裁の管轄もありうるとしなければならないからです(高橋宏志著「重点講義民事訴訟法(新版)」77~78ページ)。

このように、境界確定について必ずしも本質的とはいえない事情から、現在の通説・判例が形成されてきたとすれば、これを、所有権の対象となる土地の範囲はどこまでかという客体に関する訴訟として捉え直すことになんら本質的な問題はなく、ただ、その特殊性から証明責任は作動しない(請求は棄却されずに必ずどこかに境界線引く)と解すれば足りることになります。

 他方、しかしながら、たとえば、本来の境界線を越えて取得時効が成立した場合、取得時効の部分まで公簿上の境界線(筆界)が移動するのかというと、そうではなく、所有権の境だけが移動し、登記として分筆がなされることになると一応考えられます。つまり、所有権の境と公簿上の境界線(筆界)とは、一応は区別して理解できます。公簿上の境界線が明確であり、これを越えて取得時効が成立した場合は、まさにこの二つは分離して意識されていることになるでしょう。

審理の対象は何か?

そうすると、境界確定訴訟の審理の対象物は、公簿上の境界線(筆界)と解すべきなのでしょうか、それとも、所有権の境と解すべきなのでしょうか。

その訴訟において、取得時効の主張や当事者間の合意の有無及びその内容などが争点となり、結局、それがいずれとも判明できず、真偽不明となってしまった場合、それでも、裁判所がどこかに所有権の境の線を引かなければならないという結論は不合理といえます。これは、通常の所有権確認訴訟であって、立証責任の分配にしたがって判断(請求棄却)されるべきでしょう。

そうだとすると、所有権の境をもって境界確定訴訟の対象と解すべきではなく、境界確定訴訟は、公簿上の境界線(筆界)の確定を求める訴訟と解すべきと考えることができます。

このように考えると、結局、境界確定訴訟については、いつも、これとは別個に、所有権の範囲確認訴訟が提起され得ることを認めざるを得なくなります。

二重の手続を進行させる制度設計?

上述しましたところの新たな土地境界確定制度(当時)が創設されると、この公簿上の境界(筆界)の確定と、所有権の範囲の確認とは、その判断のための手続の当初から、全く、別個の途(手続)をたどることが明確になります。

 そこで、次に、このように、公簿上の境界(筆界)の確定と、所有権の範囲の確認訴訟とが、全く分離された手続で進行すること(制度として手続の二重化を固定してしまうこと)を、果たして妥当なものとして受け入れるべきでしょうか。境界確定訴訟と土地所有権とを切断して理解する通説・判例は、まさにこの点において反対説が絶えず、訴訟当事者の実際の感覚に合致しないと批判されてきたものですから問題になります。

 結論としては、実質的には同一の紛争というべきものが、境界確定手続と、所有権確認訴訟とに分断され、二度にわたって紛争が繰り返され得るという点を積極的に支持する合理的理由はないものと考えます。

不服申立の制度設計

そこで、境界確定登記官による境界確定処分に対する不服は、純粋に公簿上の境界(筆界)に 関するものだけではなく、むしろ、これと密接に関連している所有権の範囲についてのものであること(通説・判例の反対説の根拠である訴訟当事者の実際の感覚、及び、境界確定委員会による調停が所有権に関する紛争の解決をもめざしていること、すなわち、境界確定処分に対する不服は所有権の範囲についての不服と重なっていること)を実質的に考慮にいれるのであれば、境界確定処分の違法のみを争うのではなく、権利主体相互における法的紛争の解決を目的とするものと解し、当事者訴訟(行政事件訴訟法4条前段)と解すべきではないでしょうか。これは、通常の民事訴訟と実質において異なるところはないので、所有権の範囲の確認請求等を併合することができ、手続の重複(実質的に同一の紛争が境界確定手続と所有権確認訴訟に分断されて二度にわたって繰り返されること)を避けることができるでしょう。また、隣接地所有者が境界の確定に最も強い利害関係を有し、関係資料を有していることからも充実した審理の実現を期待できるでしょう。

この点、これを、取消訴訟等の抗告訴訟と解すると、隣地所有者を被告とする所有権確認請求は当該取消訴訟の「関連請求」とは言い難いと解され、併合審理は困難となり(同法17条)、結局、制度の設計上、手続の二重化を固定させてしまうことになるかもしれません。

専門的知見を導入しながら、従前から境界確定訴訟に関する通説・判例に対してなされていた批判をクリアするには、境界確定処分に対する不服は、当事者訴訟型として制度設計するのが妥当ともいえます。むしろ、積極的に所有権確認訴訟との併合請求を教示・促進していくべきともいえるでしょう。

なお、裁判所に境界確定訴訟が提起された場合、裁判所が境界確定委員会の意見を求めること、あるいは境界確定登記官に対して境界確定手続を開始することができるようにすることも一考です。

*注意 この論考は、平成17年4月6日、不動産登記法等の一部を改正する法律が改正される前のものです。

 

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