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非訟事件手続法・家事審判法の見直し

弁護士 永 島 賢 也
2008/05/13

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非訟事件手続法・家事審判法の見直しに関する検討

平成20年5月、現在、非訟事件・家事審判手続の見直しに関する検討が進められています。

この家事審判法、規則、非訟事件手続法等の改正の動きは、家事審判における手続保障というテーマについて、従来、訴訟と対比して特色がある(たとえば、弁論主義に対する職権探知主義という2項対立の図式など)という、幾分、抽象度の高い議論がなされてきたにすぎないのではないかという見識を背景に、もう少し、肌理の細かい、議論をしようというものと考えられます。

たとえば、乙類審判事件は、利害対立のある当事者の存在を前提とする争訟性の色彩が強いので、その審理手続において、もっと当事者主義的な構造を有すべきではないかという点が指摘できます。

当事者主義的とは、民事訴訟における原告と被告のような当事者として、手続に参加し、手続が保障されること(反論の機会があることなど)であり、また、事案解明義務ないし事案解明への協力義務を負うようにすべきとする考え方です。当事者の審問請求権や、審理への立会権、尋問権、記録の閲覧謄写権などとも結びつく考え方です。

甲類と乙類

家事審判法は、審判事項を甲類と乙類に分けています(9条)。

甲類には、統計上(2003年)、新受件数の多い順に並べると

などがあります。

乙類には、

などがあります。

件数

件数的には、甲類が、圧倒的に多いです。

乙類では、1993年から2003年にかけて、養育費の支払いを含む子の監護者の指定に関する事件が急激に増加しています。これは、離婚に関する事件数が増加していることを物語っているといえます。

甲類の特徴

甲類は、争訟性がなく、当事者の対立構造がない類型とされています。

しかし、たとえば、後見人を誰にするかについては親族の間で意見が対立することもありますし、相続放棄についても、誰が相続放棄するかによって、他の相続人にも影響があります。したがって、その背景には利害の対立があるといえます。

乙類の特徴

他方、乙類は、争訟性があり、複数の関係人の利害が対立する類型とされています。

もっとも、関係者(親族)の間での紛争ですので、関係者の合意による解決が可能な類型ともいえます。たとえば、養育費の支払などは、当事者の合意によって決まる方が、きちんと支払ってもらえる可能性が高まるでしょう。

家事調停

合意による解決といえば、調停という手続が利用することができます。

いわゆる、裁判所の提供するADR(代替的紛争解決手続)です。調停は、任意的な紛争解決手続であり、当事者が合意に達することが解決の前提となります。

乙類審判

乙類審判については、前もって調停を申し立てることなしに、最初から審判を申し立てることが可能です。つまり、乙類「審判」事件については、調停前置主義が採られていません。
条文を見てみましょう。

第17条は、家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他一般に家庭に関する事件について調停を行うと定め、ただし、甲類の審判事件については、この限りでないとして甲類を除外しています。

人事に関する訴訟事件その他一般に家庭に関する事件には、乙類審判事件も含まれますので、したがって、乙類審判事件についても家庭裁判所が調停を行うことができます。

そして、第18条は、第17条で調停を行うことができる事件について訴を提起しようとする者は、まず家庭裁判所に調停の申立をしなければならない、と定めています。つまり、「訴え」を提起するときは、まず、その前に調停を申し立てなければなりませんが、「審判」の申立の前に調停を申し立てるようには求めていません。

乙類に関する調停申立

しかし、実際には、乙類審判事件について、先に調停が申し立てられることが少なくありません。

2003年の統計によれば、その42.7%が、調停から継続した乙類審判事件とのことです。

そして、家事審判法11条は、乙類審判事件を、いつでも、調停に付することができると定めています。つまり、審判を申し立てても、家庭裁判所の判断で調停手続が始まることもあるのです。

ということは、やはり、乙類審判事項は、家事調停に適する事件類型であるといえるのではないでしょうか。

乙類事件の濃淡

ところで、乙類の中にも、バリエーション(各審判事項の特徴)があります。たとえば、遺産分割(10号)については、煎じ詰めれば、財産に関する争いといえます 。

他方、協議離婚の際の親権者の指定(7号)については、両親の争いという観点とは、別に、裁判所は、子の福祉という観点(子供にとってはどういう結論が望ましいのかという視点)から後見的に関与することが期待されています。

つまり、乙類の中の争訟性のバリエーションには、段階的な差異(グラデーション)があるので、この点に対応した手続が選択できるように法律が定められていることが望ましいと思います。

遺産分割の手続に関する考察

上記の遺産分割に関する乙類審判事件手続は、通常の民事訴訟手続に近づく性質をもっています。

たとえば、職権探知主義が採用され、裁判所に調査義務がある場面があるとしても、遺産の存否や、寄与分を基礎づける諸事情の有無を当事者の協力なしに裁判所の職権による調査のみで明らかにすることは、実際上は、非常に困難といえます。このような場合、当事者・関係者に協力義務を定め、事案解明の役割の一端を担わせる必要があるといえます。

また、弁論主義の適用はないと言っても、遺産である不動産の価額が問題になった場合、当事者が価額の評価方法(あるいは評価額そのもの)に合意している以上、それが特に不相当なものでない限り、その合意を基礎に審判がなされる方が、当事者にとって結果の予想がつきやすくなるといえます。

ですから、立法としては、一歩進んで、相続人全員の合意内容は、裁判所を拘束するという定めを設けることも一考と思われます。相続後、遺産である不動産から賃料収入が得られている場合これも遺産分割の対象の含めることにする合意がある場合とか、銀行預金などの可分債権についても当然に分割されたものとはせず遺産分割の対象に含めるという合意がある場合なども、同様に考えられるところです。

これは、弁論主義の支配する領域における訴訟契約的なものという観点からみることもできます。

親の争いと子の福祉に関する考察

他方、子供の利益保護のために手続保護人(補佐人)を設けるという点も議論されています。

ドイツで導入されている手続保護人(Verfahrenpfleger 1997年親子関係改正法 FGG50条に新設)は、子の身上に関する手続に関し、子の意思を代弁する者として、手続を追行するもので、いわば、子の代理人となります。

手続保護人は、客観的な子の福祉ではなく、子の主観的な意思を代弁する者とされ、デュッセルドルフの裁判所では、親権・交流権の裁判の60〜70%で利用されているそうです。この手続保護人を使わない場合は、交流の頻度などの細かい内容のみが争点であるときとか、子供があまりにも小さいとか、子供に自分の意思を表現できる能力が十分にあるなどの理由を示す必要があるそうです。

子の監護者指定に関する高裁決定(乙類4号)

東京高裁平成15年7月15日決定(判例タイムズ1131-228)は、離婚調停中の夫婦間の未成年子の監護権が争われ、母を監護者に指定し、父に子の引き渡しを命じた審判に対する即時抗告事件で、離婚調停がなされているのに、審判を調停に付せず、審問することなく、調査官の調査報告書に依拠して判断したという事情のみでは原審に差し戻すべき手続上の瑕疵は認められないとしていますが、調査報告書に対する意見陳述の機会が保障されていなかった点に、デュープロセス的な観点から不満が残りやすいことを示しているのかもしれません。

同決定に対する判例タイムズの解説は、「裁判官の意識に幼児の監護者は母とする母親優先の先入観が垣間見える」と評しています。

思うに、父母のどちらが良いかという視点だけでなく、現状の子の生育環境(住居、地域、学校、友人など)が変化しても差し支えないかという視点も重要な要素と考えます。

 

 

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