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並行輸入

弁護士 永 島 賢 也
2008/04/25

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 ブランド品の輸入には正規の輸入ルートと、それとは別の並行輸入というルートがあるそうですが、並行輸入とはどのような輸入のことをいうのでしょうか?

TYというブランド

 
 架空のブランドとして、「TY」というものがあるとします。イタリア国の架空の会社であるTY社は、TYというブランド名でバッグを作っています。日本の架空の会社であるRY社はTY社の総代理店(一手販売)です。TYのバッグが日本に輸入されるときは、このRY社を通じて行われます。これを仮に「正規ルート」と呼ぶとします。

 他方、「正規ルート」を通さない輸入ルートのうち、TY社がイタリアで販売したバッグをイタリアで購入し、これをRY社を通さずに、直接、日本に輸入することを、一般に「並行輸入」と呼んでいます。

 日本でTYのバッグを買うよりも、イタリアでTYのバッグを買う方が安いような場合(内外価格差がある場合)、並行輸入が行われるといわれています。

ブランドイメージ 

 TY社では、世界中でバッグを販売していますが、国によって物価水準、所得水準、ブランドイメージ、趣味、流行などが異なるため、国毎に別々の販売戦略をとっています。日本では、TYのバッグは高級品として人気が高く、ブランドイメージのため高額の広告宣伝費をかけ、品質管理には徹底的な注意を払ってきています。

 そこに、低廉な並行品が輸入され、日本国内に流通するとなると、正規ルートのバッグの価格を引き下げざるを得なくなってしまいます。また、どんどん安売りがなされてしまったのでは、せっかくTYのバッグを購入していただいたお客様に対しても失礼にあたります。高価格販売戦略のもとで今まで維持してきたTYのバッグのブランドイメージが崩れ単なる値崩れ以上のマイナスイメージを被らざるを得ません。

 更に、RY社にとっても一大事です。せっかく、一手販売の総代理店契約を締結し、日本という魅力的な市場を獲得し、責任を持って販売をしてゆくつもりだったのに、安売りはされるし、RY社を通した正規ルートの販売量は落ちるしと、非常に苦しい立場に追い込まれてしまいます。RY社は、TY社とは別に、独自の利害を有しているのです。

商標権の行使という手段


 そこで、かような並行輸入を阻止するため商標権という権利が行使されることがあります。

 RY社は、TYという商標について専用使用権の設定を受けていました(登録もされています)。そこで、RY社は、TY本社とは独自に、自己の権利に基づいて並行輸入の差し止めをしようと考えました。

 TY社がイタリアでTY商標を付したバッグをそのまま日本国内に輸入し、譲渡する行為も、形式的には商標の使用に該当するので、RY社はその専用使用権に基づいて輸入、販売の差し止め請求ができることになりそうです。

 しかし、TY社みずからTYの商標を付してイタリアで販売していたバッグが、その流通の過程で国境を越えて我が国に輸入されただけですから、RY社がTY商標の専用使用権をもっているとしても、それを商標権侵害品(ニセ物)であるとして差し止めることができるという結論もちょっと不自然な気がします。

PARKER判決

 裁判所は、要件を充たせば、並行輸入品は商標権侵害品ではなく、真正品であると判断しています(大阪地裁昭和45年2月27日判決(PARKER判決)以降多数)。大蔵省関税局も通達で並行輸入を認めるという取り扱いをしています(昭和47年8月25日付蔵関1443)。したがって、並行輸入品はニセ物ではなく、真正品だといえます。

グレーマーケット

 
 問題は、並行輸入品であるとの名目で、実際にはニセ物の商品が出回ると、その真贋を区別するのが困難になるところにあります。正規ルートかどうかという判断基準も役に立たないのです。
 このようにこの並行輸入という領域には偽造品が紛れ込むおそれがあり、そのような意味も含めてグレーマーケットと呼ばれることもあります。

出所表示

 ところで、TYのバッグについている「TY」という商標は、はたして、どこをその出所として表示していると思われますか?日本におけるTY商標の専用使用権者(商標登録者)であるRY社でしょうか?それとも、イタリアのTY社を表示していると思われますか?

 私は、TYが世界的に有名な一流ブランドであるなら、TYというブランド全体を出所として表示しているようにも思います。

 

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