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米国シャーマン法2条とマイクロソフト社

弁護士 永 島 賢 也
初稿2001/10/16

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Judge Colleen Kollar-Kotelly

United States Court of Appeals FOR THE DISTRICT OF COLUMBIA CIRCUIT Argued February 26 and 27, 2001 Decided June 28, 2001  United States of America, Appelee v.  Microsoft Corporation,Appellant 
United States of America v. Microsoft Corporation 
Civil Action Nos. 98-1232 and 98-1233 
Judge Colleen Kollar-Kotelly

司法省とマイクロソフトとの独禁法控訴事件の判決が平成13年6月28日に明らかにされました。以下の論述は、その当時のものです。

その後、WindowsXPの発売とも関連して、さまざまな進展を見せているようにも見えますが、依然として何も進展していないようにも見えます。

DC地区合衆国地方裁判所の判断

第1審であるDC地区合衆国地方裁判所は、マイクロソフト社がシャーマン法2条に違反してインテル互換のPCのオペレーティングシステムの市場における独占状態を維持し、同条項に違反してインターネットのブラウザの市場において独占状態を獲得しようと企て、そして、同法1条に違反して本来、別個の製品とされている「ウィンドウズ」と「インターネットエクスプローラー」を違法に統合したとし、マイクロソフト社に対し、オペレーティングシステムに関するビジネスとアプリケーションソフトウェアに関するビジネスとを分割する計画案の提出を求めました。

その後の報道によると、上記地裁判決が今回の控訴審によって差し戻されてから、司法省側は、分割計画に関する主張と、ウィンドウズとインターネットエクスプローラー(IE)との違法統合に関する主張を行わないことを宣言したとのことです。

その理由は、迅速な審理を求めるためとされているようです。

もっとも、上記地裁での審理でも、いわゆる「ファストトラック」が選択されていますので、かなり迅速な審理が行われたものとはいえます。The District Court scheduled the case on a "fast track".)。

司法省側が分割に関する主張を維持しないという選択はあり得るところと思われますが、違法統合(抱き合わせ)の主張も行わないという方針をとることには若干の驚きを禁じ得ませんでした。

これらの進展は、おそらくウィンドウズXPの発売と無縁ではないと思います。

Anticompetitive Conduct

そうすると、控訴事件判決のⅡMonopolization の B.Anticompetitive Conductの 1. Licenses Issued to Original Equipment Manufactures の項目が気になります。

というのは、控訴審は、この反競争的行為(Anticompetitive Conduct)の項の最後に、マイクロソフト社がOEM業者と交わしたライセンス契約のうち争点となった制限条項の(OEM業者がイニシャルブートシークエンスを修正することを制限した部分を除いて)いずれもが、マイクロソフト社が自己の市場独占状態を擁護するために、同社のマーケットパワーを利用したことを象徴的に示すものであり(この問題は同社によるいずれの正当化の主張によっても補われているとはいえず)、それゆえかかる制限条項はシャーマン法2条に違反している、と判断されているからです。

In sum, we hold that with the exception of the one restriction prohibiting automatically launched alternative interfaces, all the OEM license restrictions at issue represent uses of Microsoft's market power to protect its monopoly, unredeemed by any legitimate justification. The restrictions therefore violates 2 of the Sherman Act.

市場の独占それ自体については、これをもって、シャーマン法2条に違反するというものではありません。

行為者が、排他的行為を行うことにより、独占状態を獲得しもしくは維持し、あるいは獲得ないし維持しようと企てた場合にはじめて同法違反となります。

かかる排他的行為は、製品の優秀さ等の結果として生じる成長や発展とは区別されるところのものです。

OEM業者に対する制限

OEM業者に対するライセンス契約の項目(ⅡのBの1)で、控訴審は、マイクロソフトがWINDOWSをOEM業者にライセンスする際に付けている「制限」について評価し、かかる「制限」が反競争的効果を有することにつき司法省側が一応の証明に成功していること、これに対するマイクロソフト社の正当化の反論が不十分であること、をいずれも判示しております。

「制限」としては、

(1)あらゆるデスクトップアイコン及びフォルダ、並びにスタートメニューの内容を削除することの禁止、

(2)(最初にコンピュータの起動したときに実行される)イニシャルブートシークエンスを変更することの禁止、

(3)その他WINDOWSデスクトップの外観を変更することの禁止、

が掲げられております。

控訴審は、上記(1)ないし(3)を反競争的であると判断し、他方、(2)についてはマイクロソフト社の正当化を認め、シャーマン法2条に違反する排他的行為ではないとしましたが、残りの(1)及び(3)については、同法違反を肯定しています。

(1)については、マイクロソフト社がOEM業者に対し、ユーザーがマイクロソフト社のインターネットエクスプローラー(IE)にアクセスするときに利用する目に見える手段(要するにIEのアイコン等のこと?)を削除することを禁止することによって、OEM業者がライバルのブラウザ(例えばネットスケープ)を予めインストールすることを妨げているとしています。デスクトップ画面に複数のブラウザアイコンが並んでいると、初心者が取り扱い方について混乱し、サポートセンターに電話をかけるようになれば、対応にかなりのコストがかかり、かかる混乱に対する恐怖によって、OEM業者が、複数のブラウザをプレインストールすることを躊躇するおそれがあるとされています。

(3)については、OEM業者をしてマイクロソフト社のライバルのブラウザを奨励(promote)することを不可能にさせ、そのためソフトウェアの開発者をしてWINDOWSのAPIにつき焦点を合わせ続けさせており、当該ライセンスの「制限」によって反競争的効果が生じている(このことはマイクロソフト社自身も認めている)ことは明らかであるとしています。

マイクロソフト社の反論

これに対するマイクロソフト社の反論は、「著作権者としての権利を行使しているにすぎない」というものですが、控訴審は、かかる反論を「とるに足らない」と一蹴しています(Microsoft's primary copyright argument borders upon the frivolous)。かなり手厳しい表現だと思います。

もっとも、(2)は、起動時に自動でWINDOWSとは異なったユーザーインターフェイスに置き換えるような修正はマイクロソフト社の著作物の根本的な変更(drastic alternation)であるので(2)の制限に反競争的効果があっても、シャーマン法2条の排他的行為には該当しないとしています。

また、マイクロソフト社は、当該「制限」は、OEM業者が、マイクロソフト社の著作物の価値を減少させてしまうことを防御しているにすぎないとも主張して正当化の反論しましたが、結局、OEM業者の寛大さが(マイクロソフト社のライバルのブラウザの奨励行為がマイクロソフトの独占状態を蝕んで行くという意味以外で)WINDOWSの価値を減少させているという事実は明らかにされていないと判断して、正当化を認めておりません。

更に、マイクロソフト社は、当該「制限」にもかかわらず、ライバル社(ネットスケープ)はその製品を配布することを完全に封じられてはいない、とも反論しましたが、結局、すべての配布手段を封じていなくても、最も費用対効果の高い方法を封じているのであるから、かかる反論はマイクロソフト社が当該「制限」による責任から免れるための反論としてはなお不十分であるとされております。

実際、パソコンにブラウザをプレインストールすることはブラウザソフトを配布する最も費用対効果が高い方法のひとつであることに間違いはありません。

以上のことを前提とすると、当該独禁法控訴審判決の内容と関連して、今後発売されるであろうWindows XPについて、マイクロソフト社とOEM業者などとのライセンス契約の内容がどのようになるか、司法省が求める行動是正処分の内容がそのようになるか(分割命令と大差がないようなものとなる可能性があります)、果たして何度となく失敗してきた司法省とマクロソフト社との和解は実現するのか、など興味深いところです。

Colleen Kollar-Kotellyの裁定

その後、 Colleen Kollar-Kotelly裁判官による裁定により、MS社は上述したような危機を乗り越えましたが、さらに、その後、その和解の遵守状況や監視期間をめぐって、争いが続くことになりました。

> 和解条件を破っているとの報道について

> Vistaに関する仮想化ソフトへの制限について

> MS社の監視期限の延長について

 

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